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第6章 中国での仕事


 夜、九時ごろ、林は夏美をJR山科駅まで送った。

 「明日また来てもいい」夏美が甘い声で林に聞いた。

 「もちろんいいよ。明日天気がよければどこか行こうか」

 「それはいいよね」

 「行きたい所がある?」

 「あまりないけど。それに、明日、アキの所にお泊まりにしてもいい?」夏美がまたねだった。

 「両親に反対されるじゃない。お嬢ちゃん」林の防衛ラインは夏美の攻撃には全く無力だった。

 「パパとママは説得するから、アキと一緒にいたい」夏美の顔には嬉しさを隠せなかった。

 「分かった。気をつけて帰ってね」

 夏美がやっとつないだ手を放し、幸せそうに改札口に向かった。

 林は慣れ親しんだ外環通を歩いていた。2月の上旬は一年の中一番寒い季節だが、林の心の中は初夏のような気持ちだった。自分が小河の畔の木の陰に立ち、澄みきった水のさらさらと流れる水音を静かに拝聴し、緑豊かな大地の匂いと咲き始めた花の香りに囲まれ、温かくて新鮮な空気を胸一杯吸い込み、何も考えず、何も欲せず、ただ目の前の風景に幸せを本能的に感じるような心境だった。林は妄想しながらアパートに帰った。

 林と夏美の関係は急速に深めていった。週末になると、二人はいつも一緒だった。京阪神の寺や観光地だけではなく、名古屋まで車で遊びに行った。デパートに買い物に行くとき、林が一緒にいるだけではなく、結構アドバイスをしたりして、夏美にとっては幸せの時だった。2ヶ月も経たないうち、林と一緒じゃないと、夏美が服を買わなくなった。「中国では普通だよ」と林に言われたとき、夏美が有頂天になった。お節介な夏美の両親は「もらいもの」と称して二人に旅行券をあげたり、映画の鑑賞券をあげたりして、二人の付き合いを全面的にバックアップした。しかし、料理をするとき、手伝うのがいいけど、駄目だしされてしまうと、努力していた夏美にとってはかなりプレッシャーになっていた。何回か夏美に両親が林に会ってみたいと言われたが、林は言い訳を付けて会うのを拒んできた。付き合ってからはまだ2ヶ月は理由の一つだが、やはり奈々子のときのトラウマが認めたくなくても引きずっていた。


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