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A社との交渉 其の4


 工場予定地の見学は1時間ぐらい続いた。その後、A社の会議室に戻り、予定地に関していろいろなことを6時まで話し合った。佐野は午後からずっと眠そうな顔をしていた。

ホテルに帰り、自分の部屋に戻した後、佐野の所に5人が集まった。

 「林君が言ってたように、役所の承認は思ったより、時間がかかりそうです。僕もそう思っています」伊藤が部長に報告した。

 「具体的にいつまでと見込んでいるの」佐野が聞いた。

 「逆算してみましたが、うまくいけば来年3月末までじゃないか」

 「着工の予定日のぎりぎりまで、困ったな。」

 「将来のことだから誰も知りません。しかし、中国で事業を展開するなら、これぐらいのリスクが織り込まないといけないじゃないでしょうか。ちなみに、副市長も来られたから、張家港市も積極的に動いていることが伺えます」横にいた林は付け加えた。

 「それもそうねぇ。我が社の大プロジェクトだから、着工日を拘るより確実に工場を立ち上げるのが遥かに重要だから、この件も上に報告しておく。それより、販売チャンネルの方が全く進展してないな。困るなぁ〜」佐野が頭を抱えていた。

 「私も全く進展ないと思っています」伊藤がなすすべなく困っていた。

 「林君、何か別の方法がないか」佐野が林に聞いた。

 「僕も正直知りません。これは本当に戦略を練り直さないといけないと思います。今のA社に期待はできないことは確かです。例えば無錫市C社の親会社と提携するとか、考えないといけないじゃないかと思います」林も例え話しかできなかった。

 「子会社と提携せず、親会社に販売だけを助けてくれって虫色がよすぎるじゃないか」佐野が林に言った。

 「日本ならそうかもしれないが、中国では条件次第。利益をもたらせるなら簡単に乗ってくれると思います。やってみる価値はあります」林は反論した。

 「そうなれば一番だろうな。頼むよう、林君、帰ってからコンタクト取ってみて。何もかも中国市場で我が社薬品を売らないと、これは社運にかかる問題だから」

 「はい、全力でやってみます」林は答えた。

 前日と同じく、ホテルのレストランに宴会を開かれた。副市長と局長と王は来られなかったが、A社の福総経理や部長クラスの幹部と秘書の女性が同席した。林と伊藤と鈴木が翌日に契約交渉があるから、ほとんど酒を飲んでなかったが、佐野は横に座った女性秘書にしきりに酒を勧められ、結構の量のお酒を飲んだ。2時間半くらいの宴会はあっという間に終わり、ろれつが回らない佐野に気をつかって、みんなに言った。

 「あした、まだやることが一杯あるから、今日早く寝よう」

 みんなは「はい」と言って部屋に戻った。

 林は前日と同じ、シャワーを浴び、夏美と短い国際電話してベッドに入った。この夜は見知らぬ女性が来なかった。

 翌日の朝、林は8時20分にホテルのロビーに行った。ロビーには伊藤と鈴木がすでにいた。李は結局前日と同じ、約束の8時30分になって来られた。佐野はその日も時間通りに来なかった。

 「部長が中国のお酒に弱いでしょうか」林は伊藤に聞いた。

 「どうでしょうね。相当お酒に強いって聞いたことがあるけど、仕事で疲れたじゃない」伊藤が無症状に答えた。

 結局、佐野が9時前になってやっと来られた。

 A社に到着すると、会議室に入り、交渉がすぐ始まった。しかし、その時、王が来てなかった。王が来たのがその日昼になってからだった。

 その日は合併の出資比率と投資総額の大枠について熱い議論を交わされた。午前中の9時半から、お昼を挟んで午後の7時まで議論を続けた。大枠とはいえ、両社が相当真剣に話し合った。最終決断とは言えないが、かなりのことを合意するようになった。終わった時、議論を参加する者全員が抜け殻のように疲れ切った。夜の宴会を断り、中国式定食「工作餐」を食べてホテルの部屋に戻った。

林はシャワーを浴び、上海の実家と夏美に電話した後、10時前に寝た。この日、疲れた林が熟睡したので、ドアがノックされたかどうか全く知らなかった。

 出張の最終日は観光の日で、「双山島」という観光地に行く予定だった。

 8時半前、林はいつものようにロビーに行ったとき、伊藤がすでにロビーにいて、しばらくすると、鈴木と李が来られた。

 「じゃ、行こう」伊藤がみんなに言った。

 「部長は?」鈴木が聞いた。

 「疲れたから、今日部屋で休みたいって夕べ電話があった」伊藤が答えた。

 林は一瞬頭を傾げた。

 「双山島」は長江に浮かぶ島で、90年代以降の開発でリゾートホテルやゴルフ場などが作られ、島全体が観光地になった。4月上旬の平日とはいえ、観光客で一杯だった。日本のリゾート開発地とそれほど変わらないなと林が感じた。お昼は長江の川魚料理を食べ、夏美用と職場用のお土産を買い、4時ぐらいにホテルに戻った。

 4人がホテルのロビーに入ったちょうどその時、一台の自家用車がホテルの入り口に止まり、佐野と妖艶な女性秘書が降りてきた。

 「部長、お体大丈夫ですか?」部長が入るのを待って、李が心配そうに声をかけた。

 「見た通り、僕は全然大丈夫」佐野が満面の笑顔で答えた。

 「それでよかったです」李が喜んでいた。

 「心配をかけて悪いな。先、秘書に連れてもらって市内の観光をしてきたよ。お土産も買ってきた。今夜楽しもう」佐野が笑いながら言った。
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