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A社との交渉 其の5


 7時半に宴会が始まった。乾杯した後、みんなが楽しく飲み始めた。出張の最終日なので、林も楽しく飲めるようになった。佐野はテンションが高く、中国側から勧められたお酒は進んで飲んでいた。林はたまにA社の幹部と中国語で話したりするが、基本的に伊藤と鈴木と話していた。始めてから1時間経ったところ、王がお酒を持って林の所に来た。

「林さん、今回大変お世話になりました」王が中国なまりの日本語で林に話をかけた。

 「こちらこそ、これからも宜しくお願いします」林は日本語で答えた。

 「今日、最終日だから楽しんでください」

 「毎日のおもてなし、ありがとうございます」

 「旅の恥はかき捨てという日本のことわざがあるでしょう。思う存分に遊んでください。遠慮はご無用ですよ」

 「たがを外してないって」

 「日本の男性は昼間はまじめだけど、夜は自由奔放じゃない」王が急に中国語で話した。

 林は若い女性のことを思い出して、ようやく王の真意を悟った。

 「お言葉に甘えて」林も中国語で答えた。

 宴会は12時まで続いて、みんなかなりのお酒を飲んでいた。途中、夏美に心配させないように部屋に戻って夏美に電話した。

 部屋に帰り、シャワーを浴びた。シャワーを浴びながら王の言ったことを考えて、佐野の遅刻のことと今日観光に来なかったことを思い出し、すべてひらめいた。

 部屋がノックされ、林がドアを開けると、この前の若い女性が立っていた。

 「一緒に楽しもうよ」明らかにお酒を飲んでいて、話しながら強引に林の部屋に入ろうとした。

 「すみませんが、ボスに伝えてください。僕はこういうことが好きじゃないので」林は中国語できっぱりと断った。

 「林さんのことが大好きだったのに」女性が泣きそうな顔して言った。

 「ごめんなさい。帰ってください」林が言いながら力任せで女性を外に押してドアを閉めた。

 翌日、S社の5人は用意されたマイクロバスに乗って上海の空港に送られ、帰途についた。この日、林は会社に戻らず直接山科のアパートに帰った。


 林は中国の出張から帰ってからも忙しい毎日を送っていた。5月の役員プレゼンの準備のために、さらに、新たな販売チャンネルを開拓するため、いくつの中国の大手薬品卸売会社と接触したが、なかなか確かな手応えを感じなかった。どこの市場でも同じが、ブランドのない新規参入者に対してはどこでも冷たく、これからの市場開拓のために、非常に大きな労力と時間が必要だろうと林は自覚していた。

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