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第7章 波乱


 4月の最後の土曜日、その日、林は朝から会社に行き、夏美とデートするために、4時に会社を出て、約束のJR大阪駅に向かった。

 「最近、残業多くて身体が大丈夫?」夏美が林の手をつないで心配そうに聞いた。

 「かなり疲れている。明日、休みからどこか温泉に行きたいな」林は疲れそうに言った。

 「後でマッサージしてあげようか」

 「僕のアパートにくるの?」

 「アキ、行ってほしければ行くよ」

 「今夜は僕のところに泊まるの?」

  「それはアキの態度しだいよ」

 「パパとママに言ったの?」

 「帰らないとき電話するって言っといた」

 「着替えも持ってきただろう」林は冗談っぽく言った。

 「そうよ」夏美がちょっと恥ずかしげに言った。

 「そうか。やる気満々じゃない。僕が何の態度をとってもかまわないじゃない」

 「やだぁ〜」

 「もし今夜帰ると、きっと二人が喧嘩したってお母さんに思われるよ」林がさらに突っ込みを入れた。

 「じゃ、林さんは仕事で疲れたから邪魔しないようにと言えば変に思われないだろ」夏美が切り返してきた。 

 「夏美も上手になったね」

 「アキに習ったよ。いつも私が突っ込まれるだけじゃ不公平じゃない」夏美がちょっと有頂天になった。

 「話がかわるけど、アキ、ゴールデンウィーク、何日休みをとれそう」夏美が林に聞いた。

 「またはっきり分かってないけど、5月最初の土日二日間は確実に休める」

 「よければ家に来ない」

 「夏美の家に行くの」

 「パパとママに言われたんだ、アキに会いたいって」

 「前、ホテルで会ったじゃない」

 「パパには会ってないだろ。夏美をここまで夢中にさせた男に会ってみたいとパパが言った」

 「僕、責任重大じゃない」

 「もしかしたら前のトラウマじゃなかった」夏美が急に落ち込んだ。

 「そんなことはないよ」

 「パパとママはそんな人間じゃないよ」

 林は奈々子の時のトラウマが残っていたのが事実だが、それ以上に、理由はほとんどないけど、本能的に会いたくなかった。夏美は林にかなり気を使ってねだったり強要したりしたことはなかったけど、「連れてこい」と親に毎日のように言われていて難しい立場に立たされた。夏美の両親から見れば、今まで夏美の結婚のことを心配していたから喜んでいた面もあれば、林と付き合ってから可愛い娘がいきなりすべて変わり、われを失った娘を見て漠然とした不安があって、自分の目で林のことを見てみたかった。

 林がしばらく黙っていた。

 「家に来てくれれば今夜アキのところに行くよ。お願い」夏美が悲しい顔をしてねだってきた。

 林は何も言わなかった。

 「お願い。うちってこんな怖いの」夏美が泣きそうになった。

 「何かプラスアルファしてくれるの」林はしばらく考えて悲しい夏美を見て急に同情したくなった。

 「アキの言うことなら、何でも聞くから」夏美が躍り上がって満面の笑顔で喜んでいた。

 「ママに電話してもいい」夏美が言い続けた

 「こんな焦らなくていいだろ」

 「そうね。もうちょっと後にしよう。パパとママがきっと喜ぶわ」夏美が喜びをいささかも隠そうとしなかった。

 二人が手をつなぎで映画館に向かった。

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