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初めての挨拶 其の2


 林がグラスのビールを一口飲み、一息して言い続けた。

 「中国人を考える時、「家族」の概念が非常に重要になります。中間集団が弱い分、家族の絆が非常に強いです。さらに、その延長での友人関係が生きる上に非常に重要になります」

 「日本でも家族を大事にするような社会的慣習があるけど、中国とどう違うだろ?」定夫が林に聞いた。

 「例えば、僕は兄がいて、彼とは普段仲が悪く、それほど交流もないとします。もし兄が何かの事業を始めるとき、 「お前、お金があるだろ、兄弟だから、出してやれ」と親に言われると、出さないといけないのが社会的な通念になっています。社会的なセーフティネットがほとんどないし、中間集団も存在してないから、家族がその代わりになったり、親戚や友達を含む擬似親族による「関係」のネットワークで身を守ったりするしかない。この属人的な関係がセーフティネットの役割を果たしている一方、社会の腐敗や癒着の原因もなっています」

 「ちょっとむずかしいな、やはり文化は林君が言ったようにそう簡単に理解するものではないだろう」定夫がちょっと消化不良になった。

 「説明下手ですみません」

 「その分、林君みたい人がどうしても必要になるじゃない。中村君が君を褒めるのも納得できるよ」

 「それは褒めすぎです。追え込まれて体得したモノだから、運命というか、宿命的なモノかもしれません」

 「それを全く理解せず、いや理解しようとせず中国に帰ってしまう者の方が多いじゃない。悪意はないけど、日本人も決して理解しようとしないからね」

「できることなら微力を尽くすつもりですが、僕も臆病なところがあるから、お父さんみたい理解していただける者なら言えますけど」

「なるほど、実際の生活や仕事を絡むとそうは簡単にいかないと思う。でも、是非林君が日本に残ってほしいな。じゃ、乾杯しよう」定夫がグラスを持ち上げた。

「乾杯!」林もグラスを持ち上げた。

「パパ、堅苦しいことは今日はここまでしてください。今日は林君がはじめてうちに来られたからもっと楽しい話しよう」台所から出た夏美のママが来て、林に言った。

 「林君みたい、30才そこそこでここまで物事を考えてる若者は僕、会ったことはないよ」定夫は林を褒めて、席を立った。

 「夏美がここまで変わったから、大した人物じゃないとできるわけないでしょう」直美が未来の娘婿をじっと見つめながら微笑んでいた。

 「それは、それは」林は夏美の母に見つめられ、ちょっと恥ずかしくなり、俯せながら言った。

 「アキ君、夏美が一人っ子で甘く育てられ、かなり間抜けのところがあるから、いろいろと教えてあげて」

 「ハイ」急に「アキ君」と呼ばれて、林はちょっとビックリした。

 「それに、アキ君も時間があれば気楽に遊びに来てください。日本に両親と親戚がいないでしょう。遊びに来てください」

 「ありがとうございます」林はそれしか答えがなかった。

 夏美が料理を持ってきて、林の横に座った。

 「私の悪口を言っていたの」夏美がママに聞いた。

 直美が微笑んだだけで、答えようとしなかった。

 「そんなことはないですよ。夏美をしきりにほめていたよ」林は仕方なく答えた。

 「本当」夏美が幸せそうに笑っていた。「私の両親っていい人でしょう」

 「もちろん、そうと思います」林は内心もそう思った。

 「二人が結婚とか考えていたの?」直美が急に林に質問した。

 夏美は微笑みながら、上目で林を見て片手で林の手を握り、何も言おうとしなかった。

 「まだ、4ヶ月しか付き合ってなかったから、もうちょっと二人理解し合った方が良いじゃないかと思いますけど」林は 突然やってきた質問にどう答えるか、戸惑っていた。

 ちょうどその時、定夫が席に戻ってきた。直美は片手がグラスを持ち、片手が定夫の手を組み、少女のように幸せそうに言った。

 「私達も付き合って半年で結婚したね。パパ、そうだね。残り物同士だったね」

 「ハイ」定夫は顔が真っ赤になって、恥ずかしそうに返事した。

 「二人がまだ若いから、焦ることはないよ。ゆっくり考えればいいよ」定夫が空気を変えようと言った。

 「そうね、またゆっくり考えてみよう」夏美もすかさず相槌を打った。

 「考えてみよう」苦しい状況に追い込まれた林はやっと一息できた。

 この夜はずっと和やかな雰囲気だった。林も久しぶりに家族団らんに癒され、結構沢山のお酒を飲んでいた。

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