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昇華 其の2


 二人順番にシャワーを浴びた。

 奈々子が戻ってきた時、林はすでに着替えてベッドに横たわっていた。奈々子は先の余韻が残っていたか、頬と首元がまだ赤くなっていて、真っ白な肌が際立っていた。細い腕と狭い肩幅、上半身がかなり痩せていて、これと対照に、下半身の豊満さが非常にアンバランスだった。

 「Aカップかな、でも形が悪くないな」林は想像した。

 「こんな見ないで、電気を消して」奈々子は愛嬌よく林の横に潜り込んだ。

 林は左手を出し腕枕して奈々子を抱きしめ、右足をそっと出し、奈々子が満足げに林の足を股間に挟んだ。

 「時間大丈夫、先家に電気がついていたよ」

 「帰ってもらいたいの」

 「いや、そんなことはないよ」

 「大丈夫よ、適当に理由をつけば大丈夫。もう27だから」奈々子がうっかり年齢を言ってしまった。

 「27才か、僕30だからちょうどいいちゃん」

 「酒本さん…」語呂が悪く感じて話を途中でやめた。

 「ナナと呼んで、林さんは何を呼ばれたい」

 「林君とか、アキ君とか、アキとか呼ばれてるけど、本名はリンミョーケイ、尼さんの法名に似てない」

 奈々子が「プッ」と笑った。

 「子供の時、ミンミンとよばれてた」林が付け加えた。

 「そうね、ミンって呼んでいい」

 「いいよ」

 林は片手が奈々子の髪の毛をもてあそび、もう片手が奈々子の左右の乳首をつまんで遊んでいた。

 「僕がナナの好きなところって知ってる?」

 「大きな目かな」奈々子がちょっと考えた。

 「違う」

 「白い肌かな」

 「また違う」

 「もしかしたら体毛フェッチ」

 「こんな趣味ないよ」

 「丸いお尻かな」

 「そうではないよ。嫌いではないけど」

 「じゃ何、教えて」

 「ナナの匂い」

 「香水を使ってないし、体臭がきついって言われたことはなかったよ」

 「体臭が好きって変態じゃん、そんなことはないよ。ネットで調べたんだ。女性フェロモンっていうやつかも。女性なら誰もフェロモンが出すが、特定の男性に惹かれるって書いてあった。もしかしたら僕たちが運命の糸で結ばれていたかも」

 奈々子は幸せそうに微笑んだ。

 「それで脳が勝手に一目惚れしちゃった」林は付け加えた。

 奈々子は林の顔を軽く撫でた

 「僕のどこが好き?」林が聞いた。

 「全体かな、おもしろいところ大好き。大げさに表現したところって今も笑える」

 「初耳だ」

 「ミンって凄く優秀じゃない。彼女がいるじゃないって本気で思った」

 「上海に帰ればね。ここは日本。日本の女性って中国人に対して基本的に一歩引いてるから、言われることはないけど」林は美里のことを急に思い出した。

 「そうかな」奈々子もおもい当たるふしがあった

 「でも、日本の女性は白人に対してものすごく積極的らしい。K大の時、ドイツ人の同級生がやたらにもてたよ。あんなケチな奴なのに。白人男性が好みになった理由は男のモノが大きいじゃないかって中国人男子留学生がみんな信じてたよ。コンプレックスかな」

 「あれは違う。英語がしゃべれるから格好良く見えるかも、確かにコンプレックスかもね」

 「最初にミンに出会ったとき、日本人の大手のエリート社員と思った。いままで何人か大手の男性と付き合ったけど、みんな上目線で女を馬鹿にしてる。ミンはとても優しい」

 なぜここまで相手を積極的に求めていたか、ということは奈々子自身も分からなかった。大学卒業まで奈々子が男を困ったことは一度もなかったし、それどころか一度に二人の男性に告白され困った経験があった。だが、仕事が忙しいのも理由だけど、就職してから5年間本当にさっぱりだった。合コンで知り合った男性にセフレにならないかと言われて本当にショックだった。その後、親戚と友人から紹介された3人の男性はみんなちゃんとした所に勤めたけど、ベッドインしたのが一人、しかも一回のみだった。「俺と寝たい女が沢山いるぜ」というメールが翌日に送ってきたとき、奈々子が怒る位置を超えてしまった。なぜここまで男運が悪いか、いつも悔やんだけど、親友の祐子も会社の同僚も、同じく売れ残りが結構いた。「ナナって株の銘柄のように男を評価してるから、近寄らないじゃない」と親友の祐子に言われたとき、「あなたには言われたくないよ、私だって仕事が好きだけど、恋愛も楽しみたくてたまらないよ」と内心苛ついた。5年ぶり、いや初めての大人の恋愛に遭遇した奈々子は、理性と乙女の矜持よりも、バリュー株を買い損なわないように体が勝手に先走りした。

 林も初めての大人の恋だった。今までそれなりに女性と付き合ったことがあったけど、日本人女性とは一度もなかった。可愛い子はもちろんいたけど、気持ちが好きになる前に、相手の親にどうみられるだろうとか、習慣や食べ物などきっと困るだろうとか、といった障害を勝手につくりだし、ずっと身を引いていた。奈々子に出会った瞬間、彼女の匂いに完全に占領され、一目惚れになってしまった。常に応えてくれた奈々子の前に、林には逃げ道がなかった。

 奈々子はさらに林に寄りかかり、口を差し出し、左手をそっと滑らせ、林のモノを包み込んだ。林はつかさず奈々子を抱きしめ、手の指を奈々子の秘部に入れ、耳元でささやいた。

 「愛してるよ」

 奈々子はまた泣き出し、林のモノを先より強くつかみ上下動いた。林のモノは蘇った。林は口を奈々子の目に当て、舌で涙を舐め込んだ。奈々子の呼吸が大きくなり、生温かい吐息と彼女の匂いが林の全身を刺激した。素早くゴムをつけ、奈々子の体に重ね合わせた。

 安物のシングルベッドから「ギチ〜ギチ〜」という音と奈々子のあえぎ声が林のアパートを充満した。無我夢中に求め合う二人が、暗闇に溶け込まれ、時間も空間も静止したような境地にもがくことすらままならない。

 「もうだめ」

 「いっていいよ」奈々子が優しく言った。

 林の激しい腰の動きに合わせて、奈々子が身をすべて差し出し、二人のうめき声と同時に体が固まり、山の頂点からふわふわした雲の上にゆっくりと落ちてゆく。 


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