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奈々子の妊娠


 2002年秋

 例年と同じく、九月末から長い秋雨だった。

 10月の上旬のある火曜の夜、秋の長雨が続いていた、林はこの日、8時まで仕事を終わらせ、地下鉄に乗り継ぎ、山科のアパートに向かった。山科駅に近づくとき、奈々子のメールが届いた。

 「相談したいことがある。山科駅に着いたら電話して」

 「後5分ぐらいつく。何の用?」林はすぐ返事した。

 「ミンの所に行くから、待っててね。」

 何のことかなと林が考えながら、山科駅を出てアパートに向かった。

 林はコンビニで買った弁当を食べていたところに、奈々子が部屋に入った。

 「相談したいことって何?」林が切り出した。

 「私、妊娠したの」奈々子が少し躊躇して切り出した。

 「本当」林が突然の知らせにかなりびっくりして、箸が口に差したまま体が動かなかった。「うそ、本当。北海道の時なの」

 「多分そう。一ヶ月以上生理来てなかったから、今日検査薬を買って検査したら陽性が出た。ほぼ間違いない」奈々子はすぐれない顔で話した。

 「それはよかったじゃない。僕もパパになるよ」林が嬉しさ全開の笑顔だった。

 林が奈々子の近くに来て、お腹を優しく撫でながら至福の笑顔だった。

 「ちょっと計画外だったな」奈々子が嘆いていた

 「産もうよ。その前に入籍しよう」

 奈々子が黙っていた。

 「その前に上海の親に連絡しなきゃ、きっと喜ぶよ。そうだ、上海に連れていかないとね。それに子供の名前を何にしよう。格好いい名前にしよう。ナナは男の子と女の子がどっち好き?僕はまず男の子かな。でも女の子もきっとナナ似だから大好きになるよ」林は興奮するあまり、いろいろなことを筋なく話していた。

 「私、おろしたいの」奈々子が俯いてゆっくりと切り出した。

 「えっ、おろしたいの」林が自分の耳を疑った。

 「ミンの子供なら産みたいって言ったじゃない。そうか、奈々子の親との関係は、別居すれば、僕は我慢するよ」

 奈々子がすすり泣いていて、答えようとしなかった。

 「叔父さんは大嫌いだけど、子供のためなら僕はナナの家に行くよ。何度でもいいから。土下座して結婚を許してもらうよ」林が懇願した。

 何も話さない奈々子に、林が懇願し続けた。

 「頼むよ。二人の給料なら軽く一千万超える年収だから、五千万以下のマンションとか一戸建てならすぐ買えると思うよ。お母さんの近くに住んでもいいよ」

 しばらく林の懇願が続き、奈々子は相変わらず答えようとしなかった。

 「お前、何か言ってよ」堪忍袋が切れた林が激高した。

 「今会社が合併しているから、今結婚して子供を産むと、確実にクビにされるから」奈々子がやっと話した。

 「仕事なら、別にN証券だけじゃないだろう。産んでから仕事すれば、別に反対してるわけでもないよう。家事なら手伝うって約束しただろう」林が相変わらず高い声で怒っていた。

 「今の仕事が好きなの、子供産んだらもう二度と同じ仕事ができなくの」ナナも声を上げて答えた。

 「僕とN証券、N証券を選ぶということ」

 「そうではない。子供なら何人でも産んであげるよ。今じゃなくて、今のリストラが終わってから。ミン、私を理解して」

 「ナナのお母さんが何を言ってるの」

 「中絶すべきって言ってた」

 「やっぱりね」

 林が絶句した。高い崖から突き落とされたような絶望が感じた。目の前の女、2年間数え切れないほど愛を交わしたが、今は理解できなくなった。林は奈々子のことを凄く遠く感じてしまった。

 気まずい沈黙がアパートの中に流れていた。林は頭の中に何度も奈々子を説得しようと考えていたけど、どう説得するかが分かりかねていた。

 しばらくすると、奈々子が話した。

 「今日帰ります」

 「送るよ」林は急に優しくなった。

 「必要ないよ。自分で帰れるよ」

 「いや、妊娠してるだろう」

 林が傘を指し、二人が並んで奈々子の自宅に向かった。雨と風が何時の間に強くなっていた。奈々子が雨に濡れないよう、林が注意深く傘を指していた。今まで何百回も歩いた道が不案内に感じた。

 奈々子の家についた。

 「今日怒ってごめん。家に帰ったら早く休んで」林は奈々子の体に気遣った。

 「分かった。送ってもらって悪いね」奈々子がいつもように答えた。

 「子供のことさ、今度の週末三連休だから、もう一度ゆっくり話そう」

 「分かった。ミンも気をつけて帰って早く休んでね」

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