早めに昼ご飯を食べた後、林はJR山科駅に向かった。駅のホームで電車を待っていた時、自然に奈々子のことを思い出した。「自分が何をしているだろうなぁ。奈々子を忘れるためか」と思いながら虚しい気持ちだった。
約束した3時の15分前に、林はリーガロイヤルホテルのラウンジに到着した。ラウンジの作りは床とテーブルとソファが濃いブラウンに統一され、和洋折衷の内装が非常に落ち着いた雰囲気を作り出していた。壁に舞妓の絵が一面を覆い、ゴールドのバック色屏風に浮き上がられ、非常に目立っていた。
中村課長がすでにラウンジにいた。
「アキ君、よく来た。じゃ、かけて」中村が林に話をかけた。
「相手がまだでしょうか」林が大きなソファに腰をかけながら訪ねた。
「もうすぐ来るよ。先電話があったから」
「そうか、まちましょう」
そう話しているうちに、二人の着物女性が来られた。
「お待たせ致します」中年女性がお辞儀しながら言った。
林がすぐ席に立ち、お返しのお辞儀をした。
「うちの会社の林君」中村が林を指し紹介した。
「林 明蛍と申します。宜しくお願いします」林は頭を下げながら言った。
「こちらは埜々村さんです」中村が若い女性を指し、林に紹介した。
「埜々村 夏美です。宜しくお願いします」若い女性が一礼して自己紹介をした。
「妻の早紀です。よろしくお願いします」中年女性が自己紹介した。
「皆さん、かけてください」中村が言った。
四人がソファに腰をかけ、飲み物を注文した。
林は今回半分義務で来たから、非常に落ち着いていて、目の前の女性を注意深く観察していた。女性は振袖姿だった。鮮やかなピンク色の絹生地に若々しい花と鳥模様が刺繍されていた。同じピンク色の帯に黒の花模様がいっそう女性のかわいさを引き出していた。髪型が和風ではなく、今風だった。うすブラウンに染められたショートヘアがアゴ上ラインで若干前下がりにカットされ、丸みを生かしたグラデーションボブだった。その上にピンク色の和風の花髪飾りを付けていて、やや丸い顔に大きくもなく小さくもない目と鼻がそれほど印象的ではないが、唇が厚く真っ赤に塗られて非常にセクシーに強調されていた。奈々子の時のせいか、林は夏美の眉毛を注意してみた。眉毛が細くてアーチラインに綺麗に揃っていて、どう見ても本物だった。夏美は前屈みで浅くソファにかけ、やや斜めに林に向いていて、両手が膝の上に組んで時々指を遊んでいた。緊張したせいか、顔が林を直視できず、はにかんで俯きながらテーブルにあるジュースを見ていて、たまに林を横目に見ていた。
夏美は外大の英文科学部を卒業した後、英語関係の仕事を見つけず、父親の友人のA社に事務として働いていた。
「林君は中国の上海出身で、2年前からうちの会社に就職した。日本語はご存じのように堪能で、なかなかの好青年ですよ」中村が夏美に林を褒めながら紹介した。
「夏美さんは京都の外国大学出身で、立派な家で育てた心の優しいお嬢さんですよ」早紀が夏美のことを林に紹介した。
中村夫婦がお互いに二人をべた褒めしていた。林は時々礼儀的に謙遜を入れるが、話を真剣に聞いていなく、むしろ目の前の女性を注意深く観察していた。
夏美が褒められて恥ずかしくなり、先より頬が赤くなり、俯いたままほとんど言葉を発しなかった。緊張したか、無意識的にハンカチを出し、口と鼻を拭いていた。二人は目線が一瞬合ったが、すぐに顔をそらした。夏美が終始微笑んでいた。林の頭の中にごく自然に夏美を奈々子と比べるようになった。身長は明らかに夏美の方が高く、おそらく7センチの差がある。上半身の薄い奈々子に比べると、夏美は普通のレベルだった。着物のせいでそれ以上情報を得られなかった。奈々子のキャリアーウーマン的な雰囲気と対照に、夏美はお嬢さんタイプだった。
30分ぐらい経つと、中村が二人に言った
「早紀、私達が邪魔してもしょうがないが、二人きりにして話してもらおうか」
「そうね。若者同士にしてもらいましょう。年寄りは帰りましょう」早紀がすかさず相槌を打った。
ちょうどこのとき、夏美が横のテーブルを見て、合図を受けたように微笑んでいた。林も無意気的に横のテーブルを見たが、お洒落な老婦人が一人でお茶を飲んでいて特に変わったものがなかった。林はそれ以上気にしなかった。
中村夫婦がラウンジを後にした。
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