林は飛行機を降りてからすぐに夏美にメールで連絡した。
今回の出張は土曜から翌週の水曜、五日間だった。S社のプロジェクトは合弁相手が3社に絞り、具体的な選定に入った。そのため、出張の間、通常の仕事の以外に毎日のように宴会接待を受けていた。日本の食事と異なって、油濃い料理と酒で林の胃がもたれてかなり疲れていた。
しばらくすると、夏美の返事が来た。
「お帰り、体が大丈夫?風邪を引いてない?林さんに会いたい〜」
「毎日宴会で胃がもたれた。今日早く帰って寝たい。金曜に代休取るから週末はゆっくり会えると思うよ」
「大丈夫?心配よ。夜早く寝てね」
「分かった。夜連絡するよ。またね」林が返事した。
金曜の朝の十時ごろ、携帯が鳴った。代休を取って寝坊していた林はあくびしながら携帯を手にした。夏美の電話だった。
「もしもし、夏美さん」
「おはよう。ごめん、寝ているところ、邪魔して」林の眠そうな声を聞いて謝った。
「起きようとしたところ」
「今から林の所に言ってもよろしい」夏美が興奮気味で言った。
「仕事は?」
「今日有休を取ったから、林さんためのスープを作りました」
「ありがとうございます。もちろん来て良いよ」
「じゃ、すぐ迎えに来て、今は山科駅前の交差点にいます」
「はい、ちょっと10分まって」林はビックリした。
電話を切ってからすぐに起き、簡単に歯を磨き、顔を洗った後、急いで家を出た。途中なぜかコンビニを寄ってコンドームを買った。奈々子のときのものがまだ残っていたが、気持ちを新たにしたいから、古いやつを捨て、新しいのを買った。林は走って夏美を迎えに行った。
夏美が外環三条の交差点で寒そうに立っていた。ホワイトのニットコート、足にフィットしたスリムのパンツ、グレーのローヒールのブーツ、首にミックスカラーチェックのマフラー、大人らしい女性を思わせる格好だった。右肩に大きな鞄をかけていた。
「おはよう。体が大丈夫?」夏美が左手を出してごく自然に林の手と組んだ。
「おはよう。もう大丈夫よ」
「今日、服可愛いね」林は無性に夏美を褒めたくなった。
「ありがとう。雑誌を参考したよ。かわいいでしょう」
「そう。なかなか似合うじゃない」
二人が並んで林のアパートに向かった。
「会社大丈夫?」
「会社はITバブルで、最近相当暇になったから、有休をとっても全然大丈夫よ」
「そうか。それはよかった」
「スープを作ったよ。食べてね」夏美が鞄から大きなランチジャーを出し、中のスープをお椀に移した。キャベツと牛肉の煮込みスープだった。
「美味しそう、夏美さんを作ったの」
「そう、夏美が作ったよ。ママと一緒だけど。早く食べて」
「本当に美味しいね」林がスープを飲みながら言った。
「朝六時から作ったよ」夏美が恥ずかしそうに俯いた。
「ありがとう」林は横に座った夏美の頭を撫でた。「僕がちょっと言っただけで、ここまでやってくれるってありがとう」
林は本能的に夏美を抱きしめた。
林は目の前の夏美を見て本当に感動した。奈々子のとき、愛の本能に掻き立てられ、奈々子を愛していた自分を楽しんでいた。今は衝動的なパッションがどこにもなく、愛された自分が恋愛の心地良さを身体で感じていた。
夏美は目を閉じ、頭を林の肩に寄せ、すべてを任せるようにじっとも動かなかった。林は夏美の温かい吐息と鼓動をはっきりと感じ、夏美の頬に軽くキスした。二人の間、無言の時間が静かに流れていた。
「本当に僕のお嫁さんになりたいの」林が小声で聞いた。
夏美が軽く頭を縦に振り、何も言わなかった。林は片手で夏美のあごを少し持ち上げ、口を夏美の口に添え、舌を夏美の口に入れようとしたが、夏美の口もとがほとんど閉じたままだった。
「はじめてなの」林が口を離れて聞いた。
「はじめてじゃないけど、教えて」夏美は頬が赤くなり、顔を林の胸に沈めた。
「口開けてね」林が言いながら口をもう一度夏美の口に当てた。
林の伸ばした舌が夏美の口の中へ入れたが、夏美の舌が硬直したまま絡み合えず、ぎこちない動きをしていた。林は口を外して、「プッ」と笑った。
「これはキスじゃないよ」
自信をなくした夏美が顔を歪んだ。
「怒らないで、僕の女になりたいだろう。誰だって最初はわからないよ」
夏美の両手が林の首にしがみつき、何も言わなかった。
林は男女のイロハを最初から夏美に教えた。
すべてのことが終わったとき、もうすでに昼過ぎだった。
|