「先、痛かった?」林が聞いた。
「最初だけ痛かったけど、後は気持ちよかった」夏美が正直に答えた。
「聞いて良いの、夏美さんの過去の経験?」
「夏美さんを呼ばないで、夏美と呼んでね」
「分かった。夏美さんを呼ぶと、僕の彼女らしくないな」
「林さんは何を呼ばれたいの?林さんでもいいけど」
「そうね、親しい友達はアキとか、アキ君とか呼んでいるから、アキでいいよ」
「じゃアキにしよう。アキ」
林は一瞬「ミン」も考えたが、奈々子のことを思い出すとやめた。
「そう、先の問題。聞いていいよ。自分もたまにおかしいなぁと思ってるときがある。27才なのに、別に男を拒んだ記憶はなかったけど」
「今まで何人経験したの」
「アキは3人目。高校の時1人と大学の時1人」
「普通はそれで基本は知るはずとおもうけど」
「相手も経験豊富じゃなかったし、しかも両方とも痛かったから2、3回で諦めた」
「それはわからないけど、でも本を読んだり、ビデオを見たりして学習するのが当然じゃない。相手の男性は知りませんけど、男としてこれぐらいの努力は惜しむ人っているの。僕も結構いろいろと情報収集したよ」
「私、女の子だからそういった本とビデオは生理的に拒絶しちゃう。考えたこともなかったよ」
「恥ずかしいのが分かるけど、男の立場から見れば、「君早いね」とか、「君だめね」とか女の子に言われると、もの凄いショックをうけるよ。女の子が「君不細工だね」と言われるより遙かにショックを受けるよ。だから、そう言われないようにとにかく必死だったよ」
「えぇー、知らなかった。子供が産めればもの足りると思ってた」
「相手に「痛かった」とか、「もうしたくない」とか言ってなかったの」
「言ったかも、いや、言った。」
「それは男の子が絶対嫌になるよ」
「別れる理由にもなるの」
「なるよ。100%別れる理由の一つにはなる。」
「知らなかった。こんなに深いな」
「とにかく、デリケートよ。嫌を言ったりのがもちろん、下手に褒めてもだめ、コンプレックスになるから」
「じゃあ、どうすればいいの?」
「優しく学習を促すかな。それはできる女の基本中の基本」
「良い勉強になった。でも、アキが上手だから私勉強しなくていいから」
「上手かどうか比べるようがないから知らないけど、他力本願じゃだめよ」
「分かったけど、いつも他人に頼ってしまったのが性格だから」
「今まで人を本気で好きになったこともないし、なろうもしたことがなかった夏美がなぜ僕にここまで積極的かな、不思議」
「自分も分からなかった。年も微妙になったし、負け犬を意識するようになったかな」
「それに占いね」
「でも、アキとあった瞬間、運命を感じた」
「乙女ティックな。恐れ入ります」
「でも、ママもアキのことを褒めたよ。女の感から見ればアキが優しい男だと言ったよ」
「まだ会ったこともなかったのに、なぜ知ってるの」
「会ったよ」夏美が「プッ」と笑った。
「えぇー、リーガロイヤルホテルの時の隣テーブルの婦人」林が驚きを隠せなかった。
「そうよ。ママがずっとアキを観察したから」
「家族全員野球で夏美を応援してるって恐ろしいね」
「ごめん、全部私自信がないからだ。アキ、気にしないで」
「パパも役割を果たしたの?」
「パパも相談を乗ってくれたよ。でも、パパが恋愛のことをあまり知らなかった」
「かなり珍しいご家族ね」
「子供の時からそうなの。パパとママが元々仕事人間でママが36、パパが40の時、私を産んだからかなり過保護に育てられた。でも、パパとママが大好き」
「僕にとっては決していい話ではないよ」
「アキも大好きだから、心配しないで」
「何かあったら助けて」
林は冷静を装っていたが、心の中では穏やかではなかった。
「アキの過去を聞いてもいいかな」
「言ってもいいけど、ショックを受けるよ」
「受けると思うけど、でも聞きたい」
「上海の時、3人の女の子と付き合ったことがある。でもそれは恋愛ごっこだけ、あまり記憶に残ってなかった。日本に来て、大学院の時、中国人の女の子と付き合った。彼女は美人だけど、かなりわがまま、卒業と同時に自然消滅。彼女今何をしてるかな。当時結構愛したと思っていたが、終わってみればすぐに忘れた」
「その後は?」夏美が催促した。
「知ってたの?」林が聞き返した。
「中村さんから聞いたけど、つい最近まで付き合ってた」
「よく知ってるね。中村課長も僕のことをよく調べてるだ」
「会社のだれでも知ってるって、中村さんが言ってたよ。結婚前提で付き合ってたじゃなかったの」
「恐れ入りますよ。なぜ僕の情報がここまで筒抜けなの」
「中村さんがパパの友人なの。だから、紹介する前かなり慎重だった。かなり優秀な青年だけど、つい最近彼女と別れたという中国人同僚が大丈夫かとパパに聞いたよ。家族で相談した結果、会ってみよう、という結論になった」
「なんかマイホームを買うと同じね」
「ごめん、紹介だからそれぐらい責任は発生するじゃない」
「でも、今日、僕が夏美を抱いたことは中村課長に言わないで、会社の中に立場がなくなるよ」
「はい、分かった。言わないことにしよう」
「でも、親には言うでしょう。夏美の両親に会いたくないな。娘を盗んだように見られそう」
「こんなことは絶対ないよ。パパとママが凄くいい人、アキのことも好きと言っていたし、私がアキを大好きだから、盗んだじゃない」
「僕が自由放任の家庭で育てたから、夏美の家族を理解できないかも」
「先の話の続きを聞きたい、つい最近別れた彼女のこと」
「去年の10月、まだ4ヶ月しか経てなかったよ」
「本当につい最近ね。結婚前提で付き合ったじゃない。なぜ別れたの?」
「いろいろとあったから」
「いろいろってなに、聞きたい」
「親が会いたいと言われたから、会いに行ったら、彼女の叔父さんにもの凄い失礼のことを言われた。中国人が民度低いとか、大嫌いとか、僕の中国籍をやめろとか、悪口言い放題だった。娘の彼氏が中国人であることに面白くないと思ってたらしい」
「それはひどすぎるね。彼女本人は?」
「もちろん本人はそう思ってなかった」
「親の反対で別れたの?」
「その後、彼女が妊娠して、僕が結婚しようと言った。しかし、彼女が僕と相談せず中絶した。僕が怒って別れちゃった」
「アキの子供なのに、相談もせず中絶したの。信じられない。何か特別の理由があった?」
「週末に妊娠したことを知らせてくれて、翌週の週末にゆっくり話そうと僕が言ったけど、金曜に中絶した」
「信じられない。理由は?」
「僕も未だに分からない。彼女によれば、ちょうど会社が合併する真っ最中なので、子供を産むと、確実に首にされてしまう。仕事と子供の中に、仕事を選んだ。子供を産んだら仕事をすれば、今の仕事ができなければ別の仕事がきっとあるだろう。言ったけど、聞いてくれなかった。未だに理解不能」林が嘆きながら言った。
「何の仕事、きっと立派な仕事だろう」
「証券会社のM&A、会社の吸収合併の仕事をしていた。彼女はかなりしっかりはしていた」
「一回やめたらなかなか同じような仕事じゃできないだろうね」
「それも分からないことでもないけど、でも、相談もせずに中絶ってありえないだろう」ここまで言うと、林がかなり興奮気味になった。
「きっと別の事情があったかもしれない」
「言ってくれなければ知るわけがないよ。最後に大喧嘩したから、別の理由はないと思う」
「アキ、今も彼女のことが好きなの?」
「こんな問題聞くか」
「それはそうね。二年も付き合ったし、結婚も考えたから、未練ないわけがないだろう」
「4ヶ月後、他の女の子を抱いてるって夢にも思わなかった」
「同じベッドで?」
林は黙って否定しなかった。
夏美が不機嫌な顔をして黙っていた。
「だから、最初言っただろう。ショックを受けるから聞くな」
夏美が黙り込んでいた。
「でも、夏美には本当に感謝してるよ。夏美がいなければ今も僕が落ち込んでいただろうな」
「僕のことが好き?」不機嫌そうに黙っていた夏美を見て林が聞いた。
夏美が黙ったまま、ゆっくりと首を縦に振った。
「それで十分じゃない。僕も君のことを愛してるから」
林は何も言おうとしない夏美を強く抱きしめた。
「ちょっとヤキモチを焼いてるの?」
「ちょっとじゃない。かなりヤキモチ」夏美が泣きそうな声で言った。
「私と彼女、どっちが好き?」
「比較するようがないよ。彼女とは綺麗に別れてたから、今は間違いなく夏美に決まってるよ」
「でも、私って出来が悪いじゃない」
「彼女と比べると、彼女の方がしっかりしているし、頭もいいし、自信もあったけど、夏美の方が美人だと思うよ。それに、夏美には愛してくれる家族がいるのに、彼女にはいなかったよ。これから比較するな。僕は未練がましい男じゃないから」
夏美が納得しなかったようだ。
「夏美なら僕の子供を産むの?」
「結婚前提で付き合ってるなら絶対産むね」
「そうでしょう」
林が言いながら、片手で夏美の乳首をちょっと力を入れて揉んだ。突然だったか、それとも感じたか、「あぁー」と言って全身が一瞬けいれんした。
「やめてぇ〜」夏美が甘い声をした。
林はすかさず夏美の口を塞げた。夏美が林の舌を待っていたように、口元開けたままだった。
二人は再び体を重ねた。
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