「今夜予定ある」加藤が言った。
「特にないですよ」林が答えた。
「ちょうどいい、合コンに行かない?」
「合コンですか、行ったことないです」
「総務のマー君が急に東京出張になって、一人足りなくなったんだ。林も社会勉強しなきゃ」
「数合せって僕できないですよ」
「君女好きだろう。そうじゃなければ行かなくていいよ」
鎌をかけられた林は断る余地がなかった。元之がこれをみて、
「六時に会社前のコンビニ集合、遅刻するなよ」と強引に決めた。
林と元之以外に、調達部の榎本忠司も合コンに参加した。忠司は林より2才年上、元之と違って、仕事ができ、会社の中で指折りのイケメンで、すごく感じのいい人だった。林が外国人だったのか、配属してから一ヶ月の間、林に話をかける人は少なかったが、忠司は話をかけてくれた数少ない一人だった。
「アキか、よく来たぞ。今日楽しもうよ」忠司は微笑みながら林に言った。
林の名字は明蛍で、中国語の発音では「ミョーケイ」になる。どうも尼さんの法名に連想されてしまうから、親しい仲間では林を「アキ君」か「アキ」を呼んでいる。
「先輩、たくさん教えて下さい。」合コンに行くようになったから、林は心を落ち着けて臨もうと思った。
「教えることはないさ、ただ本能にしたがえればいいよ」忠司が意味深く言った。いつもの忠司のイメージと違っていた。
三人が阪急電車を乗って京都の四条河原町に着き、予約したシャレタ洋風居酒屋の店についた。店員の誘導に従って個室に入り、女の子達を待った。七時半を待ち合わせしていたが、七時四〇分になって三人の女の子が来られた。
「遅れてごめんね」リーダー格の女の子が声を目一杯高くして言った。顔にはちっともそのような気持ちがなかった。残りの二人は小柄で、一人はちょっと柳原可奈子似で活発そうな子で、もう一人はおっとりしていてちょっと相田翔子似の子だった。
「乾杯しようか」女の子達が席に着くと、元之が言った。
「乾杯!」みんなが言った。「今日の出会いのため」元之が付け加えた。
自己紹介の時間に入った。元之が自己紹介したあと、忠司は左手があごの先端をひねりながら言った。
「榎本忠司と申します。宜しくお願いします。趣味はサーフィンと読書です。元之が同僚で親友でもあります。もちろん独身です。好きなタイプはだれだろうな?」
「ステキ」リーダー格の女は忠司の格好よさに惹かれたか、目を細めてうっとりした声で言った。
「まだ酒も飲んでないのにもうこんな風になったかよ。演技ならこの女は怖いな」林は内心思った。
林の番になった。「林と申します。中国人です。宜しくお願いします。彼らは僕の先輩です。趣味は特にないけど、ひいて言えば音楽を聴くことです。特に浜崎あゆが好きです」
三人の女の子が目の前の外国人男にビックリした。
「こんなにびっくりしないでよ。俺だって好きで来てるわけでもないし、数合わせで無理矢理連れられてきたよ」林は冷静を装って笑いながら内心思った。
「日本語が上手ですね」一人の女の子が自分達のビックリした表情に気づいたか、フォローしてきた。
「そうね、そうね」残りの二人はつかさず頷いた。
三人は京都市内の総合病院に働いていた看護婦だった。「佐智子です。サッちゃんと読んでください。看護婦です。趣味はお酒とクラシック音楽です。好きなタイプは押尾学です」リーダー格の女は興奮気味でフッハッハと笑いしながら自己紹介した。
次に、柳原可奈子似の子が自己紹介した。彼女は女性とも思われないほどの低い声で話した。「名前は未怜です。同じ看護婦です。趣味は映画鑑賞です。好きなタイプはマッチョな男です。みんなに柳原可奈子に似ていると言われています」
林は結構未怜の低声が好きだった。
三人目の相田翔子似の子が自己紹介し始めた。「佐津川美里です。看護婦です。これといった趣味はありません。寝ることは大好きです。休みがあればとにかく寝ます。宜しくお願いします」美里が終始俯いたまま話していた。
「俺と同じく数合わせで連れてきたじゃないか」と林は思った。
合コンは正式に始まった。リーダー格の女は凄いペースで酒を飲み始め、30分のうちに生ビールを2杯飲んで、テンションもあっという間に高くなった。林以外の男性陣もリーダー格の女に合わせてテンションを高めた。