挨拶した後、「その後、どうだった」元之は意気揚々に聞いた。
「何もありませんよ。ただ家の電話番号をゲットしましただけ」林は答えた。
「なんだ、うまく行ったと思ってた」
「未怜ちゃんの話によると、美里ちゃんがアキのことを結構気に入ったみたいよ。電話したらどうだ」元之は話し続けた。
「そうですか、僕は外国人だから、お世辞じゃないですかね」
「アキは外国人である前に、S社の社員だろう。S社はブランドだから」
「そうですかね。分かりました。先輩はどうなったでしょうか」林は聞いた。
「当然のことでしょう」元之は一瞬神秘的な笑みを浮かび、満足げに言った。
「さすがに先輩」林は声を高くしてほめた。負け同士が傷を慰め合ったじゃないかと内心思ったが、悔しい気持ちもあった。
「未怜ちゃんを彼女にするの」
「あるわけないよ。彼女もわかってるさ。」
林はそれ以上聞くのをやめた。
「忠司先輩はもちろんでしょうね」林は話題を変えて忠司のことを聞いた。
「それはそうさ」元之は言った。
「でも部屋が出たとき、結構寂しい顔をしていましたようね。僕の勘違いかもしれませんけど」
「よく分かったな。さすがに帝大出身」元之はかなりビックリした。
「忠司は前に朋子というかわいい女の子と長く付き合った。もう二人結婚秒読みだと誰も思ってた。しかし、二年前ぐらいか、新しいプロジェクトのリーダーになった忠司は仕事が急に増え、朋子をほったらかす時期があった。寂しいせいか、朋子が元彼と飲みに行って、酒の勢いでホテルに行った。普通誰も言わなければ何の問題もなかったけど、元彼が我々業界の人で言いふらしたらしい。噂がすぐに忠司の耳に入った。まじめな忠司が耐えきれなくて二人が別れてしまった。」
元之が残念そうに一息を飲んで言い続けていた。
「朋子はもちろん後悔したよ。僕のところまで頼みにきてな。けど、忠司が頑固でなかなか話を聞いてくれなかった。元々関連会社で働いた朋子は仕事を辞めざるを得なかった。かわいそうよ。仕事を辞めて東京に行った。半年後、忠司の気持ちが整理に着いたとき、朋子はもうすでに人妻になってしまった。これから忠司が変わった。今のようにね」元之が先の満足げな笑顔が微塵もなくずっとため息しながら話した。
「人生何があるかわからないよ」元之が意味深長に付け加えた。
「こんな深い理由があったか、全く知りませんでした」林は自分のことのように落ち込んだ。
しばらく沈黙した後、「まさかサッちゃんを彼女にしないでしょうね」
「馬鹿か、俺は知らんよ、本人に聞いて」元之が嘲笑った。
「また今度行こう。アキも俺みたいに育ててやるよ」元之が上目線で言った。
「宜しくお願いします」林は元気よく爽快に答えた。
夕方になると、今までちょっと暑かった天気が一転して雨が降り出し、気温も急激に低下した。夜九時ごろ、林が帰宅したとき、冷たい雨に身にしみる風に撃たれてかなりの寒さを感じ、会社の近くでビニール傘を買い、帰宅の足を速めた。