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合コン 其の2


 前菜みたい雑談が一巡した後、核心に迫る会話が出てきた。

 「サッちゃんはいつもかわいいと言われてるよ」リーダー格の女が忠司に絡んできた。

 「私もかわいいとおもっているよ」忠司は相槌を打った。

 「かわいい女の子も酒を飲めば不細工になるって」

 「そんなことはないよ。もっとかわいくなるよ」横にいた元之が割り込んだ。

 「榎本さんって格好いいね、彼女がいるでしょう」佐智子が元之を無視して忠司に話した。

 「いないよ。ふられるばかり。サッちゃんが僕の彼女になってくれない?」忠司は一瞬顔がけいれんしてすぐに元に戻って言った。

 「いいよ」佐智子が大胆に言った。

 「カップル成立。早すぎるじゃない」隣にいる低音女は嫉妬してきた。「私も立候補します」

 態勢が早くもはっきりした。リーダー格の女と低音女はともに忠司に興味をもっているようだ。林は終始第三者のように観察していて、美里も局外で、元之だけが焦っていた。

 1時間だったところ、「ごめん」と言って、リーダー格の女はトイレにいた。リーダー格の女がいないうち、低音女は積極的に忠司に話をかけた。5分経ってもリーダー格の女が帰って来なかった。ちょうどその時、忠司が横にいた林に合図をしてトイレに行った。5分経った後、忠司とリーダー格の女は一緒に帰ってきた。リーダー格の女は顔が明らかに先より赤くなって、ちょっともうろうとしていた。

 二人が席につくと、先のような会話がまた始まった。

 林も生ビールを2杯飲み、酔いが回ってきた。

 「夜勤が多いですか」林は美里に話しかけた。

 「交代で月一週間程度」美里が答えた。

 「彼氏と時間合わせが大変ね」

 「そのせいで何人もの彼氏とわかれました」

 「病院の先生を捕まえれば。ある意味理解もできるし」

 「そんなは滅多にないよ。地位が全然違うから」

 「酒が進んでないから、弱い方」

 「結構好きよ。明日仕事があるから」

 「もしかしたら数合わせ」

 美里がにっこりと笑って答えなかった。

 「僕もそうよ。数合わせ同士よ」

 二人は目が合ってすっきりと笑った。

 「来た以上、それなりの結果をもとめないと」

 美里が林の話を理解できなかった。

 「よければアドレスを教えてもらえないでしょうか」林はここだけ敬語になっちゃった。

 「携帯は持ってないよ」美里がはっと悟ったようだ。 

 「この子の断り方が下手な。ほかの言い方もあるだろう」軽くふられた林は内心そう思っていた。

 「そうですか。じゃ別の連絡方法はないでしょうか?」

 林は別に目の前の美里がタイプではない。狩りに出る以上、せめて一匹ぐらい撃ってみないといけないと思った。

美里は店の割り箸袋に自宅の電話を書いてくれた。

 「勤務時間がばらばらなので、留守電に入れたら後で返事します」美里が付け加えた。

 「ありがとうございます」林は勝者のように喜んでいた。

 「百発百中じゃない」と内心思っていたが、決して自分の携帯番号を教えようとしなかった。

 テーブルに綺麗に二つのグループに分けられ、それぞれ盛り上げていた。リーダー格の佐智子のハイテンションの笑い声が個室に響き渡り、それに未怜の低音に相まって合唱団の「重唱」になっていた。残り物の林と美里はそれなりに楽しんでいた。

 「明日早いから、これで失礼します」とリーダー格の佐智子が言った。

 「サッちゃん、明日休みちゃん」低音の未怜がわざと言った。

 「婦長さんと変わってもらった。来週広島にいかなくちゃ」佐智子が軽く言った。顔を斜めにして、まぶたが激しく開け閉じしていた。

 「僕もそろそろ帰らないといけない。明日朝ちょっとした野暮用があってね」忠司がいきなり言った。

 先のトイレタイムでもうすでに交渉成立したそうだ、と林はすべて悟り、二人に目を配った。低音女は悔しくて顔を歪み、元之は焦りが全面的に顔に出し、口が開けたまま何か言おうとしていた。美里は状況を理解できないというより理解しようとしなかったか、片手が顔を支え、目の前の料理をじっと見ていた。

 リーダー格の佐智子は酒を飲み過ぎたせいか、顔が真っ赤になって、「ごめね、ごめね」連発した。忠司が勝者のように笑みが浮かんでいたが、すっきりとした笑いではなく、その笑みの裏に無力な寂しさと空しさを林はどうしても感じてしまった。

 店を出る前、忠司が財布から一万円を出し林に渡した。

 「これで勘弁してください」忠司は申し訳ないように言った。リーダー格の女はお金を出そうとする仕草さえしなかった。

 「お気を付けて」みんなが言った。

 二人が出た後、個室の中では急激に賑やかさを失った。それから三十分ぐらい経ったところに、「そろそろお開きにしようか」と元之が無力に言った。時間が十一時前だった。

 「そうですね。帰りましょう」酒をほとんど飲んでなかった美里が同意した。

 元之と林が一万円除いた飲食代を払った。

 会社の近く住んでいた元之は阪急を乗り、未怜と一緒だった。林と美里はちょっと離れた地下鉄三条駅に向かった。

 「どっか他の店に行こうか」林は男性の本能か、勇気を絞って里見を誘った。

 「明日早いから、また電話してください」美里は考えて断った。

 地下鉄三条駅まで二人はほとんど無言だった。方向が違っていたので、ホームで分かれた。

 地下鉄が空いていて、林は席に座りながら今夜の出来事を思い浮び、初狩りとして合格点はあるようだと思った。例え掛けなくても美里の電話番号をゲットした。トイレタイムの交渉術を目の前にした。林はまたやりたいような気がした。そう思っているうちに山科駅に着いた。


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